正午前だというのに、辺りは夕方かと見紛うほどに暗かった。いつ降り出してもおかしくなさそうな空模様の下、傘を持たないで家を出たのは、別に忘れていたわけじゃない。もはや必要ないと分かっていたからだ。だから財布も持たなかったし、鍵も閉めなかった。つまりはそういうわけで今、私は二十四階建てビルの屋上にいた。より正確に状況を伝えるのであれば、柵を乗り越えて縁に立っていた。見下ろすと人々は一様に上を見ていた。私を見ていた。悲鳴を上げている者もあれば、怒号らしき声を発している者もいる。しかし彼らが皆怯えていることはよく分かる。報道でも、まして映画でもなく、現実の死が眼前に迫る現象としてあるならば、当然の反応だろう。死というのは、それがたとえ他人事であっても恐ろしいものだ。事実、私も身体の震えが止まらない。とは言え、いつまでも躊躇していられない。私は目を閉じ、ただ一言呟いた。

「死ね」

 瞬間、空一面に待機していた隕石群が、地上目掛けて一斉に降り注いだ。

 すべての人が死に絶えて、半ば潰滅した町を、今私は歩いていた。泥棒の心配などなくなった町。どんな札も硬貨も意味を持たなくなった町。ほとんど嵐といっていいようなイカレた雨が降り注いでいるなか、ずぶ濡れになっている私を笑う者さえもういなくなったその町を。


【了】



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